冬の男子寮おでん記
冬が近づくと、学生時代私の居た男子寮では決まって一部屋に仲間が集まり、手作りおでんを囲む恒例行事が始まりました。材料を切るところからみんなでワイワイ取りかかり、大鍋いっぱいに具材を放り込めば、部屋は一気に湯気と出汁の香りで満たされます。やわらかく煮えた大根と卵は毎回ダントツの人気で、鍋を前に自然と“争奪戦”が発生。手を伸ばす順番で小競り合いが起き、時には「取ったもん勝ち!」と鍋の横でジャンプして奪いにくる猛者まで登場し、笑いが絶えません。
具材は寮生の出身地によって様々で、トマトやロールキャベツ、車麩、タコ足など、地域色豊かなラインナップが揃います。最初は「合うのか?」と半信半疑ながらも、いざ煮えてみると意外に相性抜群。気がつけば豪華な寄せ鍋のようになり、みんなで驚きながら楽しむのもお決まりの流れです。



そして、寮ではお約束の“つまみ食いの連鎖”が必ず発生します。「味見だけ…」が合言葉のように誰かが箸を入れた瞬間、その隣もまたその隣も続き、鍋の量がみるみる減少。料理が仕上がる前に人気の具材が残り少なくなることもしばしばです。
さらに事件を呼ぶのが“からしトラブル”。からし好きの先輩がこっそり大量につけると、次に食べた後輩が「ヒィッ!」と咳き込み、寮内が水や牛乳を探す大騒ぎに。笑いと涙が同時にこぼれる冬の名物シーンです。

一方で、味の最終調整を一手に担う“鍋奉行”も必ず現れます。何度も味見を重ねながら出汁を調整する姿は、まるで本物の料理人。誰も逆らえず、全員がその指示に従う光景は、毎年変わらない微笑ましい風物詩です。最後はバラ肉を追加しうどんを投入、全員で鍋をきれいにたいらげると、これで今年も冬を乗り切ろう…と実感する、そんな男子寮らしい温かな夜です。









